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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(オ)435号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉井晃、同菅野谷信宏の上告理由ついて

原審の適法に確定した事実関係によれば、(一) 医師である訴外金沢旻は、(1) 昭和三五年一二月、同訴外人が被上告人東京都国民健康保険団体連合会から将来支払を受けるべき同年一〇月一日から昭和三六年一一月末日までの診療報酬債権を訴外東京中央信用組合(当時の名称・中央医療信用組合)に譲渡し、右被上告連合会に債権譲渡の通知をし、かつ、(2) 昭和三六年一二月、訴外金沢が被上告人社会保険診療報酬支払基金から将来支払を受けるべき同年一二月一日から昭和三七年一一月末日までの診療報酬債権を右訴外信用組合(右被上告基金が補助参加人)に譲渡し、右被上告基金に債権譲渡の通知をしたところ、(二) 訴外金沢に対して債権を有する訴外亡高橋園子(上告人の被相続人)は、(1) 昭和三六年二月、訴外金沢の被上告連合会に対する昭和三五年一二月一日から同三六年一月末日までの診療報酬債権の差押・取立命令を受け、かつ、(2) 昭和三七年七月、訴外金沢の被上告基金に対する同年五月一日から六月末日までの診療報酬債権の差押・取立命令を受けた、というのである。

ところで、現行医療保険制度のもとでは、診療担当者である医師の被上告人ら支払担当機関に対する診療報酬債権は毎月一定期日に一か月分づつ一括してその支払がされるものであり、その月々の支払額は、医師が通常の診療業務を継続している限り、一定額以上の安定したものであることが確実に期待されるものである。したがつて右債権は、将来生じるものであつても、それほど遠い将来のものでなければ、特段の事情のない限り、現在すでに債権発生の原因が確定し、その発生を確実に予測しうるものであるから、始期と終期を特定してその権利の範囲を確定することによつて、これを有効に譲渡することができるというべきである。これを本件についてみると、前記事実関係のもとにおいては、訴外金沢のした各債権譲渡は、これを有効と解するのが相当であり、これと同旨の見解のもとに、右各債権譲渡の通知完了後にされた債権差押・取立命令に基づく上告人の本件債権取立請求は失当であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗本一夫 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田 豊 裁判官 本林 譲)

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